ビール看護旅
大学病院、市中病院、ツアー・イベントなどの看護師を経験後、産業保健師へ。複数の企業のサポートや大学院での学び直しを経て、独立。
企業の健康管理のサポートをメインに活動。スナックやアートワークを通して遊ぶように「保健師する」のが最近の楽しみ。
ビール看護旅
フリーランスの産業保健師として働く傍ら、不定期イベント「スナックBar 保健室」を開催している後藤みずえさん。スナックのママに憧れているということで、カウンターをお借りして平日の昼下がりからスナック風にインタビューしました。(出演していただいた黒田さん、ありがとうございました!)
「瓶ビールで人にサーブするのって意外と難しい。生ビールみたいに調整できない、一発勝負ですからね。はい、乾杯」
見事な角度、速度でビールを注いでくれた後藤さん。ビールが好きだそうで、三茶WORKのクラフトビールプロジェクトにも参加しています。特に好きなのはサッポロ黒ラベルやハートランド。
「お酒を飲み始めた最初の頃は甘いカクテルとかを飲んでいましたけど、病院勤めの付き合いでビールを飲むようになって、いつのまにか好きになっていましたね。乾杯する場所が好きなので、家ではそんなに飲みません。フェスで飲むビールもビアガーデンも大好き。誰かと一緒に飲むビールがいいんです」
大学病院に4年間看護師として勤め、派遣ナースとして場所を転々としながらさらに2年間。それから保健師に転職。10年にわたり週に4日非常勤の産業保健師として会社員の方の「健やかに働く」をサポートし、その後独立。具体的には心身の健康相談や休職・復職のサポート、健康経営推進のサポートなど。プライベートでは、自分を整え、安心してくつろぐワークのお手伝いもしています。
「もともと産業保健師になりたかったんですが、当時は看護師の経験しかなかったので、保健師の世界に行くのが難しかったんです。たまたま非常勤で週4日の契約になったので、週に1日は産業カウンセリングの勉強の時間にあてていました」
ここで「看護師」や「保健師」について説明しておくと……
看護師資格をベースに予防医学と公衆衛生の専門性をもつのが保健師。母子保健の専門性をもつのが助産師。看護師は国内に120万人、100人に1人の割合でいるそうですが、保健師は5万人と狭き門。学校にいる保健の先生は「養護教諭」といいます。これは産業保健とはまた異なるそう(詳しくは後藤さんに)。
保健師のほとんどが行政の領域で働いているのに対し、産業医と違って設置義務が特にないという背景もあり、産業保健師は多くありません。大企業では社内に保健室を持つことがスタンダードになってきていますが、中小企業では従業員の健康や安全への投資をしたくてもどうしたらいいか分からないことが多いのだそう。だからこそ、「フリーランスとしてそういうところに細やかなサービスを届けたいんです」と後藤さん。
盛んに旅行していたのは派遣時代。
「派遣でナースをしていた頃は、3ヶ月働いたら海外に旅行して、また3ヶ月働いて……というのを繰り返して放浪していました(笑)。にぎやかな旅は楽しくて、のんびり放浪するのもよかったんだけど、ふと何がしたいんだろうって思い始めて。最近は旅の意味も変わってきたように思います」
宮古島には毎年訪れているほか、新型コロナの自粛要請直前にも観光客のめっきり減った伊勢へ。国内を中心に、行った先の文化や暮らしを味わうのが楽しいといいます。
「旅って掛け算だと思うんです。旅 × 食事だったり、そこに音楽があったり、自然もいつも違う。人もその人らしく生きている人に出会うようになってきている気がする。気になる人をめがけて行くことも多いですね。あの人がやってるお宿に行ってみたい、とか」
年や経験を重ねてからの静かな旅は、外側より内側との対峙になることも多いそう。
すっかり三茶WORKに馴染んでいるので、三茶歴を聞いてみたところ意外にも「ビジターなんです」とのお返事が。三茶WORKの利用をきっかけに、世田谷区にお引越ししたのだそうです。
「三茶の友人から話は聞いていて、最初はドロップインで利用しました。当時は川崎のシェアハウスに住んでいたのですが、ここまで来たいと思いました。他のコワーキングスペースも利用したことがあるのですが、そっちは『オフィス』感が強かったというか。三茶WORKはカフェのような空間や雰囲気に一目惚れでした」
ソファー席か、広いテーブルがお気に入り。自由に考えごとしたり、研修のワークショップの内容を考えるときに三茶WORKを利用しています。「3階の居心地が好き。適度に雑音があってゆるやかに集中できます。働いている人たちが楽しそうなんですよね」。
ビールも飲み終えたところで、スナックBar 保健室について聞いてみました。
「本業の場合、そこそこシビアな状態の方もいらっしゃるんですが、もっと気軽でカジュアルな感覚で相談しにきてもらいたいと思いついたのがBar 保健室でした。健康診断の結果に対する保健指導も、銀座のクラブに来るようなノリで楽しくできたらいいなって。やっとスキルも身に付いてきて、ママにもなりたかったので、スナックを間借りさせてもらってイベントしたんです。これまでに5回ほどやってきたのですが、回数を重ねるとただの飲みになっちゃって、保健室っぽさが薄れてしまって(笑)」
飲むのは楽しいものの、心身の健康の話からは遠ざかってしまう……。一度やり方を考え直し、オンラインでもやってみることに。
「オンラインがなかなか良くて、一人暮らしの晩ごはんタイムっぽくなりました。参加者のみなさんが頑張ってその時間までに帰宅して、在宅の方も仕事を終わらせて、お疲れさまって乾杯。この前は『今日初めて声を出した』という人もいましたね(笑)。一人暮らし応援スナックです。20年後はオンラインの老人ホームかグループホームになってるかも(笑)。リアルでもまたできたらいいですが、今はオンラインで13回続いています」
本来カウンセリングは対面で行うことが一般的ですが、スナックBar 保健室はオンラインに可能性を見出しているようです。
「クリックするだけで参加できるところもいいと思っています。自分のリラックスできる空間で、嫌になったら切っちゃってもいいくらいの気持ちでやれたら。家族や友達に話すのもちょっとためらわれる話を聞く、利害関係のない『便利な他人』になりたいと思っています。もやもやしていることも、意外と1回話せばすっきりすることだったりする。カウンセリングは、その人が本来持っている力をサポートするとも言えますから。それこそ産業保健師のいない会社に勤めている方でも、誰でも相談できる場を作りたいですね」
日々の労働や対人関係で体や心を壊すことが少なくなる社会を目指して。目下の興味は2拠点生活だそうですが、そこにも周りの人たちへの思いやりがありました。
「コロナがきっかけでいろいろリモートに切り替えてみたら意外とできたので、これからもできるんじゃないかなと思っていて。お水がきれいなところで、小さな畑を持ちたいです。ワークショップや、呼吸や動作を整えるワークのお手伝いも、そういう場所でできたらいいですね。リノベーションしてもいい物件だったら、シバヒデさんとかにお願いしたり、ハーブのことは静香さんに聞いたりとか、三茶WORKのつながりを活用していけたらと思っています」
インタビュー:2020年6月時点
Photography:Tomohiro Mazawa
Interview/Text:Yukari Yamada